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　前の学校で彼は卑劣な虐めを日常的に受けていた。彼自身、普段は全く喋らないタチであり、クラスで浮いている存在であった。いわゆるボッチである。虐めの対象にはもってこいの存在であろう。何をされても彼は悲鳴の一つも上げなかったのだから。だが、実を言うと彼の精神はズタズタに打ちのめされていた。もう限界だった。虐めは日を重ねるたびエスカレートしているようにすら感じられた。このままでは命が奪われるのも時間の問題だと彼は悟った。
　親の前では随分と陽気なキャラを演じていた。表と裏。光と影。人格上の対比。彼は幾つかの顔を持ち、それを状況に応じて使い分けるようになっていた。もう、どれが本当の自分なのか自分自身でもわからない。彼は己の人生に絶望した。自殺も考えた。実行には移らなかったけど。
　その代り、学校……いや、この町から離れたいと強く思い始めていた。逃げ出したい衝動は虐めがエスカレートする度に強まる一方だった。
　体育館裏。ギチギチという鈍い音が響いていた。その音源は縄だった。厳密に言えば、少年の首を絞める縄があまりの力にギチギチと音を立てているのだった。どうやら3分間意識が飛ばなかったら彼の勝ちなのだと虐めグループの連中は言っていたが、内容ともどもあまりに残酷なものだった。今回は特に残酷だった。当然3分間なんて持つはずがなく彼は古くなったぬいぐるみのようにぐったりと意識を失ってしまった――

　彼が次に目を覚ましたのは真っ暗な森の中だった。どうやら彼をイジメていた連中は彼が死んでしまったのかと思い、慌てて森に投げ捨てたようだった。手荒いにもほどがある。真っ暗な森は人間の侵入を拒んでいるようであった。夜の鳥が声を上げ、説明できない足音がそこらじゅうで響く。背後に無数の視線を感じるような気がする。彼はここで死んでしまいたかった。自然と目には涙が溢れていた。駄目だ。このままでは死んでしまう。と思った瞬間。「アぁ……」と掠れた声が出た。それが引き金になったかのように
「ああ。ああああああ。　アぁぁあああああああああああああああああああっ！？」。とにかく叫んだ。声を張り上げた。内側から自分を飲み込もうとしたどす黒い何かを声と共に吐き出せるような気がした。そのまましばらく叫び続けた。